■原因
膀胱の出口にある前立腺が肥大することで、前立腺の内部を通る尿道を圧迫し排尿障害を起こすといわれています。
前立腺が肥大する原因は完全にはわかっていませんが、男性ホルモンなどの性ホルモン環境の変化が関与すると考えられています。
前立腺肥大症を発症する明らかな危険因子は加齢だといわれていますが、その他に遺伝的要因、食生活、肥満、高血圧、高血糖、脂質異常などがあげられます。
■主な症状
【排尿症状】
・排尿困難
尿が出にくい、尿の勢いが弱い、尿が分かれる、排尿の途中で尿が途切れる、尿をするときに力まなければならない等の症状が起こることがあります。
【畜尿症状】
①昼間頻尿
一日に何回以上という定義はありませんが、朝起きてから就寝までで概ね8回以上の頻尿が起こることがあります。
②夜間頻尿のために就寝後1回以上起きる場合があります。
③尿意切迫感
急に我慢できないような強い尿意が起こる症状を指します。
④切迫性尿失禁
尿意切迫感があって、トイレまで間に合わずに尿が漏れてしまうような症状が起きる場合があります。
④過活動膀胱
まだ膀胱に十分尿が貯まっていないのに、膀胱が勝手に収縮してしまい、頻尿になる症状を指します。
立腺肥大症の50~70%が過活動膀胱を合併するといわれています。
【排尿後症状】
①残尿感を感じることがあります。
②排尿後尿滴下
排尿が終わったと思った後に、尿がたらたらっと漏れる症状を指します。
【合併症】
①血尿
前立腺肥大によって、尿道粘膜の充血が起こり、前立腺部の尿道粘膜から出血して血尿が出やすくなることがあります。
②排尿障害によって膀胱内に残尿が残るようなると、尿路感染が起こりやすくなる場合があります。
③尿閉
膀胱内に尿が充満しているにも関わらず、尿が出せない状態を指します。前立腺が肥大し大きくなる程、起こりやすくなるといわれています。
④腎機能障害
膀胱内に多量の残尿が残るようになったり、排尿障害で膀胱壁が高度に肥厚すると、腎臓から膀胱への尿の流れが妨げられ、腎臓が腫れる状態(水腎症)となり、腎不全になることがあります。
⑤溢流性尿失禁
膀胱内に常に多量の尿が残ることで、膀胱内にそれ以上尿が貯められなくなり、尿道から尿が溢れ出て、いつも尿がちょろちょろと漏れることがあります。
■診断方法
一般的に、以下のような検査が行われています。
①自覚症状の評価
世界共通で用いられている国際前立腺症状スコアなどを用いて、前立腺肥大症の重症度や症状がどれくらい日常生活に支障をきたしているか調べることがあります。
②直腸内指診
肛門から直腸に指を入れ、前立腺に触れることで、前立腺の形や硬さ、痛みの有無を調べる検査です。
③尿検査
尿の濁りや血尿の有無、尿路感染症の有無などを、肉眼的検査や顕微鏡的検査などで調べる検査です。
④尿流測定
トイレ型の検査機器に排尿すると、尿の出方がグラフで示され、尿の勢い(1秒間にどれくらいの尿が排出されるか)、排尿量、排尿時間などが自動的に数値化されて表示されます。簡便に排尿障害の有無や程度をスクリーニングすることができる検査です。
⑤残尿測定
排尿直後に膀胱内にどれくらいの尿が残っているかを測定します。排尿直後の下腹部の超音波検査によって調べることが出来ます。
⑥前立腺超音波検査
超音波が出る装置を下腹部又は肛門から挿入し、前立腺の大きさを計測する検査です。
⑦血液検査
・前立腺から分泌される特異なタンパク(PSA)の濃度を測定します。前立腺癌のスクリーニング検査として行われることがあります。
正常値は4ng/dL以下ですが、前立腺癌があると上昇します。前立腺癌以外にも、前立腺肥大症や前立腺炎でも数値が上昇することがあります。
・前立腺が非常に大きく肥大していたり、多量の残尿がある場合に、腎機能障害の有無を調べるために、クレアチニン値を調べることがあります。
⑧上部尿路超音波検査
立腺肥大症の合併症として水腎症の有無(腎臓が腫れているかどうか)を調べるために行われることがあります。
■治療方法など
一般的に、以下のような治療が行われています。
【薬物療法】
①α1受容体遮断薬
前立腺平滑筋の緊張を和らげ、尿道を広げて排尿を楽にする作用があります。
②坑コリン薬
膀胱の収縮を抑える薬で、尿意切迫や頻尿などの過活動膀胱を合併している場合に用いることがあります。
尿の出にくい人に使うと、頻尿が改善しても尿排出障害が悪化し、尿閉を引き起こすことがあります。そのため、投与する前には尿流測定をしたり、残尿を量ったりして慎重に用いられています。
③坑男性ホルモン薬
男性ホルモンが前立腺に作用するのを抑える薬です。前立腺を縮小させることで、閉塞を改善する働きがあります。
前立腺はすぐに縮小するわけではないので、効果が現れるまでには3カ月以上かかるといわれています。大きい前立腺には効果があるとされています。
④5α還元酵素阻害薬
前立腺を強く肥大させる男性ホルモンの生成を抑制し、肥大した前立腺を縮小させ排尿障害を改善する働きを持つとされています。
⑤PDE5阻害薬
尿路血管などの血管拡張作用や前立腺などの平滑筋弛緩作用により、血流や酸素供給を増加させ前立腺肥大における排尿障害を改善する働きを持つといわれています。
⑥漢方薬や生薬
植物から抽出したエキスを薬にした生薬や漢方薬を治療に使うことがあります。
【手術療法】
薬物治療を行っても症状の十分な改善が得られない場合や、血尿や尿閉を繰り返す場合などに手術療法が行われることがあります。
①内視鏡手術
尿道口から挿入した内視鏡を通して前立腺を観察しながら、内視鏡に備わった電気メスやレーザー光線を用いて肥大した部分を切除したり、くり抜くなどすることで前立腺を小さくする方法です。
身体への負担が比較的少ないため、内視鏡手術が主流とされています。
②開腹手術
下腹部を開腹して前立腺の肥大した部分や全体を切除することで前立腺を小さくする方法です。特に前立腺の肥大がひどい場合に有効とされています。
【保存療法】
水分を摂りすぎない、コーヒーやアルコールを飲みすぎない、刺激性食物の制限、便通の調節、適度な運動、長時間の座位や下半身の冷えを避けるなどが大切だといわれています。
■お勧め運動メニュー
※本記事はこちらの資料を参考に作成しています。