■原因
先天性と後天性(リウマチ熱、動脈硬化、心筋梗塞、変性など)があり、原因を特定できないものも多くあるといわれています。
以前は、リウマチ熱の後遺症として心臓弁膜症になることが多かったのですが、現在は抗生物質の普及により、リウマチ熱を原因とする心臓弁膜症は減少しているようです。
近年では、加齢に伴う弁の変性や石灰化による心臓弁膜症が高齢化の進行とともに増えているといわれています。
また、膠原病や血管炎の炎症が原因になったり、傷口や歯周病、抜歯後などに細菌が血液に入り込み、心臓の弁を破壊する感染性心内膜炎が原因になる場合もあります。
■主な症状
弁膜症は、弁そのものが狭くなってしまう狭窄症と、弁が正しく閉鎖できずに血流が逆流してしまう閉鎖不全症の二つにわけられます。
初期症状の動悸や息切れなどは老化により起こる現象によく似ているので、気付かないことも多いといわれています。
また、軽い弁膜症に身体が慣れて症状を感じにくくなったり、自覚症状自体が現れないこともあります。
【狭窄症】
①僧帽弁狭窄症(MS)
息切れ、呼吸苦、浮腫、心房細動などの不整脈が起きることがあります。
②大動脈弁狭窄症(AS)
労作時の呼吸困難、狭心症症状、失神などが起こる場合があります。
③三尖弁狭窄症(TS)
首の不快感、疲労感、皮膚の冷感などが起きることがあります。
④肺動脈弁狭窄症(PS)
労作時の呼吸困難、狭心症症状、失神などが起こる場合があります。
【閉鎖不全症】
①僧帽弁閉鎖不全症(MR)
呼吸困難、起座呼吸、疲労感、動悸、心房細動などの不整が起こる場合があります。
②大動脈弁閉鎖不全症(AR)
動悸、胸痛,労作時の呼吸困難、起座呼吸※)、夜間に突然起こる呼吸困難などがあります。
③三尖弁閉鎖不全症(TR)
無症状のことが多いといわれていますが、重症になると疲労感、腹部膨満、食欲不振などが現れることもあります。
④肺動脈弁閉鎖不全症(PR)
無症状のことが多いといわれています。
※起座呼吸…横になると呼吸困難が増強し、起き上がって座位または半座位になると楽になる症状のことを指します。
■診断方法
一般的に、以下のような検査が行われています。
①問診
動悸、息切れや胸の痛みなどの自覚症状があるか、症状が現れ初めた時期やどんな時に症状が出るか等を聞かれることがあります。
②聴診
心臓弁膜症特有の心雑音の有無を確認します。
③心エコー検査(心臓超音波検査)
心臓と弁の動きを画像で見ることができる検査です。心臓の弁の形や開閉の状態、狭窄や逆流の程度、心臓の大きさ、心臓の収縮する力などが分かります。心臓弁膜症の重症度も判断出来ます。
④胸部エックス線検査
心臓の大きさや形、肺のうっ血の有無、大動脈の異常などを調べることが出来ます。
⑤心臓CT検査
主に弁の石灰化の状態を知るために行うことがあります。
⑥冠動脈造影・心室造影検査
太ももの付け根や手首などから、細い管(カテーテル)を入れて造影剤を流し、エックス線で撮影する検査です。
心臓に酸素や栄養を供給する冠動脈の異常や心臓の動きなどがわかります。また、心室造影を行うと心臓内と大動脈内の圧力を測定することもでき、心臓にかかっている負担の程度もわかります。
■治療方法など
【経過観察】
軽症から中等症で自覚症状もない場合は、定期的に検査を行いながら経過観察となる場合もあります。今は軽症でも、何年か経過すると進行する場合があるため、定期的に通院することが大切だといわれています。
【薬物治療】
・血管拡張薬…血管を広げることによって血液の逆流やうっ血を改善する効果があると言われています。
・利尿薬…尿量を増やすことで、うっ血や浮腫を改善する効果があると言われています。
・抗不整脈薬…心臓のリズムを改善し、不整脈が原因で起こる症状を軽減させる効果があると言われています。
・抗凝固薬…血液が固まりにくくし、血栓が出来ないようにする作用があるとされています。
・強心薬…心臓の収縮力を高め、心臓の負担を軽減する働きがあるとされています。
【外科的治療】
1.一般的な外科手術
胸を切開して行う治療法です。全身麻酔で行なわれ、手術時間はだいたい3~5時間といわれています。術式には以下のようなものがあります。
①弁形成術
弁の傷んだ部分を取り除いて縫い合わせるなど、弁を修理して機能を回復させる手術法です。
基本的に、自分の弁を使い続けることができ、術後に抗凝固薬を内服しなくて良いのが利点とされています。しかし、手術にかかる時間が弁置換に比べて長い、将来的に弁置換が必要になることもあるといわれています。
②弁置換術
弁形成では対応できない時や、持病や高齢のために長い手術時間に耐えられないと判断された場合に行われています。
人工弁には、炭素繊維やチタンで出来ている機械弁と、ウシまたはブタの心嚢膜を用いた生体弁の2種類があります。
機械弁は耐久性が高く、多くの場合一生持つとされています。しかし、弁に血液がこびりついて血栓ができることがあるため、抗凝固薬を生涯飲み続けなければならないといわれています。
生体弁は、感染に強く血栓ができにくいため、抗凝固薬を飲むのは術後約3カ月間のみとされています。しかし、機械弁に比べて耐久性が低く、15~20年で弁の異常や劣化により再手術が必要になる場合もあります。
2.カテーテル治療
持病や高齢など理由で外科手術が困難な場合に行うことがあります。
①経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI/TAVR)
重症の大動脈弁狭窄症の場合に、主に太ももの付け根から血管にカテーテルを通し、小さく折りたたんだ人工弁(生体弁)を挿入する手術法です。麻酔は、全身麻酔で行う場合と局所麻酔で行う場合があります。治療に要する時間は1~3時間程度といわれています。
②経皮的僧帽弁裂開術(PTMC)
重症の僧帽弁閉鎖不全症に対する治療法です。太ももの付け根から血管にカテーテルを通し、左房に持ち込んだクリップを僧帽弁の下に差し込み、うまく閉鎖できない弁尖をクリップでとめるのが一般的です。
■お勧め運動メニュー
※本記事はこちらの資料を参考に作成しています。